あ、そろそろ新しいお花に替えなきゃ。花を飾ることはいつしか習慣になりがちですが、玄関を出て、まちを歩く時間を、ほんのちょっと幸福で温かいものにしてくれる存在があります。
それが、お花屋さんです。有限会社いたばし生花店の3代目代表を務める板橋茂穂さん(写真右)、店舗運営をリードする宇津宮里枝さん(写真左)ご姉弟に、地域に根ざしたお花屋さんのあり方を聞きました。
寄り添いが生む「花」以上の価値
──私の家族がよく利用していて、男性も入りやすいと聞いています。
板橋さん
ありがとうございます。父から代表を継いで8年目になりますが、就任当初、地域に根ざした花屋としてどうありたいか、姉をはじめとした従業員と話し合いました。花を選ぶためだけの場所ではなく、地域の方にとって「人」に会うために訪れたくなる場所にしたい。その考えを共有し、生来コミュニケーションが得意な姉を中心に、自発的に寄り添う雰囲気が築かれていきました。
板橋さん
例えば、常連さんが店の前を通りかかれば「〇〇さん、あれ(お供えの花束)やろ?」と自然に声かけできるのが姉の持ち味です。
宇津宮さん
得意と思ったことはなく……無意識ですね。花屋の娘として生まれ、小さい頃から母を手伝うなかでお客さんに触れてきたこともあり、自然と身についたのかもしれません。今、弟に言われて気が付きました(笑)。
──地域の方にとって、足を運ぶと温かく迎えてもらえる憩いの場なんですね。お花選びの手助けで意識されていることは何ですか?
板橋さん
贈る相手に想いを寄せることです。お供えの花束を例に挙げると、生前みかんが好きだったおばあちゃんへの贈り物であれば、みかん色のお花を。花を供える一時が、大切な人を思い出す時間になればと思っています。
宇津宮さん
お祝い事でも、贈る側が優しい気持ちに、贈られる側が嬉しい気持ちになれるように。形だけの贈り物でなく、両方の「心」に彩りを添えられるようにお手伝いしています。
「贈る」想いのかけらを、地域の力に
──贈り物といえば、母の日が思い浮かびます。昨年5月には、ギフトの売上の1割を地域の子育て支援団体に寄付されたとか。きっかけは何だったのでしょう?
板橋さん
近年の物価高騰で、特に地域のひとり親家庭が困窮していることを知り「何かしたい」という思いが自然と芽生えました。経営者として、売上を削る判断が従業員に受け入れられるか不安だったのですが……。
宇津宮さん
私自身、子どもを育てる母ですが、その発想はありませんでした。だから、弟が先に地域の困りごとに目を向け、提案してくれたことに感謝していますし、誇らしく思いました。
飛騨トマトから得た、染め花の着想
──板橋さんを中心に新たな挑戦に向き合われているのですね。いたばしを彩る「染め花」を始めたのも3代目からと伺っています。
板橋さん
本格的に始めたのは3年ほど前ですね。方法はさまざまですが、いたばしではお花に色水を吸わせて新たな表情を生み出しています。
──思い通りに発色するものですか?
板橋さん
なかなか思い通りにはいかなかったのですが、あるとき、飛騨トマトの甘さの秘密が寒暖差にあると知り、それを染め花に応用してみたんです。お花を業務用の冷蔵庫で冷やした後、30度の温室に移して色水につけると、花が一気に水を吸い、イメージ通りに発色しやすくなることに気が付きました。
冬は寒く、霜焼けや赤切れに悩まされるそう。
「好きじゃないと続けられない」と話す宇津宮さん。
──つい真似してみたくなりますが、私のような素人でもうまくいくものでしょうか?
板橋さん
ぜひ、挑戦してみてください。うまくいかなくても、いいんです。たとえ不格好でも、一生懸命に作った卵焼きって、どこか心に沁みますよね。
板橋さん
いたばしのカラーに私たちだけの大切な想いや経験がつまっているのと同じように、想いを込めて手がけたお花には、その人にしかない「幸せ」の色が宿ります。
板橋さん
お花そのもの以上に大切なのは、花に触れた人が幸せな気持ちになれるか。その感覚を分かち合えたら、私たちも幸せです。
毎年3月には、いたばしを中心に、地域の飲食店などを巻き込んだ「ミモザまつり」が開催されます。(※発行時には終了)
「まちを散策し、魅力を知ってもらいたい」と語るご姉弟の目には、地域への愛情と情熱が宿っていました。いたばしの花が、人の「心」をつなぎ、地域をつないでいきます。
三代知香
