
全国的に野生鳥獣が農地や森林を荒らしたり、人を襲ったりする被害が増えています。本市においてもニホンジカやイノシシ、クマなどの目撃情報が相次ぎ、私たちの生活圏にまで影響が及んでいます。今回の特集では、市内の鳥獣被害対策の取り組みを紹介し、安全・安心な暮らしと農林業を守っていくため、私たち一人一人にできることを考えます。
野生鳥獣による被害が拡大
近年、イノシシやクマなどの野生鳥獣による被害のニュースを目にする機会が多くなりました。市内でも目撃数が増え、農林業の被害が拡大しています。
農林水産省の統計によると、令和6年度の野生鳥獣による農業被害額は全国で約188億円。市内では約787万円で、被害面積は約3.4㌶となっています。7年度の市内の被害額は約1千138万円で、被害面積は約8.5㌶。被害額、被害面積ともに前年度を大幅に上回る状況にあります。これは、鳥類による稲の被害と、獣類による果樹の被害が増えたことが大きな要因ですが、この数値は農地だけのもので、家庭菜園などは含まれていないため、実際の被害はさらに大きいと推測されます。
イノシシやクマの移動は広範囲にわたるため、被害の対象範囲も年々広がりを見せ、予測することが困難となっています。
市街地へのクマの出没が増加
近年、中山間地域だけでなく、市街地でもクマの目撃が多発。商業施設内に侵入する事例も報道されています。クマによる人身被害も増加し、昨年は全国で過去最多を記録。国は、人の生活圏にクマやイノシシが出没した際、安全が確保されていることなどの条件の下で、市町村が依頼した猟友会などによる銃猟を可能とする「緊急銃猟制度」を昨年9月に施行しました。
これを受け、市は独自に緊急銃猟対応マニュアルを策定。今年6月にクマが市街地に出没した際、市民の安全を守るため、市長が緊急銃猟を指示しましたが、実際には発砲せずに捕獲されました。
環境の変化が出没増加の要因に
野生鳥獣の出没が増えた背景には、中山間地域の人口の減少や遊休農地の増加があり、特にニホンジカやイノシシの繁殖力は非常に高く、それらの要因から個体数が急激に増えたと考えられます。
また、山林内の餌が少なくなったことで、動物たちは食料を求めて人の生活圏へ進出せざるを得なくなりました。こうした中、私たちの生活と本市の豊かな農林業を守るため、最前線で鳥獣被害に立ち向かう人たちがいます。
守り、後世に残す 鳥獣被害対策への挑戦
近年、中山間地域にとどまらず、市街地でも発生している鳥獣被害。農作物や森林への被害は、私たちの日常生活に直結する問題となっています。
手間と苦労が一晩で台無しに

「明日収穫しようと思っていた矢先に、ごっそりやられるんです。朝起きて田んぼや畑を見て、本当にがっかりしますよ」。そう話すのは、東和町内の中山間地域で農業を営む鈴木さんです。
「収穫期を迎えた米を半分ほど食べられたり、畑が容赦なく荒らされたりしたこともありました。手間暇かけて育てた農作物が一晩で台無しになったときのショックは、言葉になりません」と悔しさをにじませます。

厄介なのが動物たちの学習能力。一度追い払ったとしても、すぐに学習してまた近づいてきます。そこで鈴木さんは昨年、市の補助を受けて電気柵を設置。「費用はかかりましたが、今のところは電気柵が一番効果があると感じています」と手ごたえを口にします。しかし、その一方で「誰か一人だけ対策しても、動物は別の農地に行って荒らす可能性があります。登米市の農業を守っていくためには、地域全体で協力して対策していくことが大切なんです」と訴えます。
数々の困難があっても、鈴木さんが農業を続けられるのは、一緒に農業を営む仲間たちとの絆と、農業への思いがあるからこそ。「自分たちが作った米を食べて喜んでくれる人がいると思うと、負けてられないって思うんですよね」。その目には、地域の農業を守り抜くという強い決意が宿ります。
生活に影響する林業被害
林業の現場でも、深刻な問題が起きています。近年、ニホンジカなどによる食害が急激に増加し、植林した苗木の半分以上が被害に遭うこともあります。

苗木は新芽を頭から食べられ、大きく育った木であっても樹皮を剥がされて枯れてしまうことがあります。そんな中、津山町森林組合は、被害を防ぐために5年前から苗木を1本ずつ保護カバーで覆う対策を続けています。
食害で木が枯れると、木材としての価値が失われるだけではありません。森林が持つ雨水を蓄える水源涵養機能や土砂災害を防ぐ重要な役割が低下してしまいます。森林の荒廃は、私たちの安全な暮らしに影響を及ぼす可能性もあるため、豊かな森を後世に残すための対策が進められています。
生活環境や農林業を守る「鳥獣被害対策実施隊」
地域住民のために強い意思と共に一歩を

農業を営む佐々木さんが狩猟免許を取得しようと思ったのは13年前。自宅を新築した際、作業に来ていた猟友会所属の大工さんに勧められたのがきっかけでした。自身の農地も被害に遭っていたことから「自分でもやってみよう」と決意。当初は、水田の被害を防ぐためにカラスやスズメなどの鳥類を対象に活動していましたが、年々獣類による被害が増加してきたことから、現在ではシカやイノシシの捕獲も担っています。
一方、千葉さんが狩猟免許を取得したきっかけは、親戚からの勧めでした。「最初は射撃への興味から始めましたが、野生鳥獣の捕獲は決して簡単なものではありませんでした。相手も生き物なので、捕獲することには罪悪感や抵抗感があります。それでも『地域の生活や農林業を守る』という思いで続けています。鳥獣の捕獲には強い覚悟が必要なんです」と訴えます。
佐々木さんは、活動のやりがいについて「地域の皆さんに頼まれて捕獲し、結果を出して安心してもらうことです」と話し、続けて「今後も技術の向上に励んで、いずれは若い世代へ継承していきたいです」と未来を見据えます。

狩猟に興味を持っている人に向けて2人は、「狩猟免許の取得や猟銃の所持には手間と時間がかかります。そして、『上達したい、獲りたい』という意欲がなければ続けていくのは難しい世界です。だからこそ、強い意志を持って一歩を踏み出してください。共に地域のために活動する仲間を待っています」と入隊を呼びかけます。
狩猟免許の取得を支援しています
【対象者】市内に住所があり、登米市鳥獣被害対策実施隊員として、有害鳥獣被害対策に従事するために新たに狩猟免許を取得する人
※狩猟免許取得後は、登米市鳥獣被害対策実施隊員として、市が取り組む有害鳥獣対策事業に従事していただきます
【補助内容】狩猟免許を取得するための講習会の受講料、狩猟免許試験の手数料、猟銃所持許可の手数料を対象に5万円を上限に交付します
※講習会受講前に申請が必要です。また、補助金の交付には条件がありますので、事前にご相談ください
【申請・問い合わせ】産業経済部農林振興課(農村環境係) ☎0220(34)2709
「安全」と「農林業」を未来へ 私たちに求められることとは
近年、市内でも急増しているクマの目撃。クマを私たちの生活圏内に寄せ付けないためにはどうすればよいのでしょうか。そして、鳥獣被害を予防するために、私たちが日頃からできることを、長年本市で鳥獣被害対策に尽力してきた冨士原則義さんと渡邊優さんに聞きました。

「クマは本当に鼻がいいんです。特に、果物のような甘い匂いには、敏感に反応します」と冨士原さんは指摘します。
昨年の夏、果物の香りに誘われたクマが、数日間にわたって市内に出没しました。クマは本来、警戒心が強い動物ですが、それ以上に強いのが食欲。一度でも「ここにはおいしい餌がある」と覚えると、何度でも現れるようになります。
以前のクマは人間を恐れて山に隠れていましたが、中山間地域の人口減少や耕作放棄地の増加などにより、徐々に人里へ。山の餌が少なくなってきたことなどもあって、私たちの生活圏に出没するようになりました。「これからの季節は冬眠前の餌を求める時期なので、市街地への出没が増える可能性があります。身を守るためには、事前にクマの習性を調べて知識を身に付けておくことが重要です。
山に入る際も、これまで以上に注意が求められます。クマやイノシシなどの野生動物は、朝と夕方に活動が活発になるため、この時間帯の入山は極力避ける必要があります。
そして、何より重要だと語るのは、1人で山に入らないことです。
「1人で山菜採りなどに行き、クマと鉢合わせてしまって襲われたら、助けを呼ぶことができません。山では熊鈴などを鳴らし、『ここに人間がいるぞ』とクマに知らせることが安全対策として有効とされていますが、それで絶対に安全というわけではありません。足跡やフン、爪痕などの痕跡を見つけたらすぐに引き返すなど、常に周囲に気を配るようにしてください」と警戒を促します。
テレビなどでも度々注意喚起されていますが、万が一クマと遭遇してしまった際、どのような行動をとるべきなのでしょうか。
「一番やってはいけないのは『背中を見せて走って逃げること』です。クマは逃げるものを追いかける習性があります。実際に私も山でクマと目が合ったことがありますが、目をそらさずに見ていたら、クマの方から離れていきました」と実際の体験を振り返ります。
また、近年護身用として持ち歩く人が増えているのがクマスプレー。人間にも強い刺激を与える可能性があるため、いざというときに冷静に風上から使用できるよう、事前に使用方法と注意事項を確認しておくことが大切です。
「私たちもパトロールや捕獲に努めていますが、それだけでは被害を防ぎきれません。クマを人里に引き寄せないためには、地域ぐるみでの対策が必要です。まずは、生ごみの処理など、身近な生活環境から見直してみてください」と訴え、地域の安全を願います。

一人一人の「心がけ」が被害対策の力に

昭和40年代頃の狩猟は、キジなどの鳥類を対象とした趣味の側面が強いものでした。その後、植林などによって山の環境が変化し、平成10年頃からシカが、その後を追うようにイノシシが増え、現在は狩猟の目的が趣味から有害鳥獣の捕獲へと大きく変わりました。
野生動物が頻繁に人里へ下りてくるようになった大きな原因は、「餌」と「隠れ家」です。屋外に放置された生ごみや、収穫されずに落ちたままになっているカキやクリの実などが餌になり、管理されていない空き家などがすみかになります。また、除草されていない草むらは、身を隠しながら人里へ近づくルートになり、近年は中山間地域だけでなく、市街地の家庭菜園が一晩で荒らされる被害も増えています。
また、クマだけでなく、イノシシやシカも人に危害を加える恐れがあり大変危険です。過去にはイノシシに手首をかまれるなどの負傷事例もあるので、安易に近づかないように気を付けてください。
私たち、鳥獣被害対策実施隊は、これからも地域のために活動を続けていきますが、地域の皆さん一人一人の日頃の心がけが、鳥獣被害を減らす大きな力になります。もし、被害に遭った場合は、遠慮なく市役所などへご相談ください。安全・安心な生活と豊かな農林業を守り、未来へつないでいくため、私たちと共に地域全体で鳥獣被害対策に取り組んでいきましょう。
鳥獣被害が発生する主な原因
私たちが日頃の生活の中で気を付けることが被害の予防につながります。
①エサがある
食べ物があると何度も出没するようになります
- 放置された野菜や果実
- 未収穫のカキやクリなど
- 置きっぱなしのペットのエサ
- 生ごみの放置 など
②隠れ場所がある
隠れられる場所があると被害の拡大につながります
- 草刈りされていない場所
- 遊休農地
- 手入れされていない竹林・やぶ
- 人目に付かない場所 など
③侵入しやすい
空き家や床下の隙間などがすみかや侵入経路になります
- 管理されていない空き家
- 床下や屋根の隙間
- 放置された果樹園
- 防護柵の未設置や破損 など
問い合わせ窓口
鳥獣被害や農地整備
鳥獣による被害の通報、地域で中山間地域の農地を整備したい場合の支援。
産業経済部農林振興課(農村環境係)
☎0220(34)2709
農地の適切な管理
農地を売買・貸借したい場合の相談や手続きなど。
農業委員会事務局(農地管理係)
☎0220(34)2317
市公式LINEで通報
鳥獣の目撃や被害を市公式LINEからも通報できます。クマやイノシシなどの目撃情報も配信しています。
クマやイノシシなどを目撃した場合は連絡を
- 産業経済部農林振興課 ☎0220(34)2709
- 各総合支所 ☎18~23ページ上部参照
- 警察署 ☎110番
