-地域を守る力が厄介者を新たな資源へ変える-
問 農業振興課農山村対策班 ☎22-9151
実りの秋。食欲の秋。これからの季節は多くの農作物が収穫を迎え、生産者にとっては胸高鳴る時期となりますが、同時にイノシシなどの野生鳥獣の活動が最も活発となる時期でもあります。
平戸市の農作物被害額は、近年、減少傾向にあるものの、令和7年度は1,100万円の被害がありました。被害を受けた生産者は、そのショックの大きさから次年度の作付けを中止したり、離農するケースも出ています。さらに、管理されなくなった農地は、イノシシのすみかとなり、近隣の被害を拡大させるといった悪循環が生じています。
平戸市では、平戸猟友会、田平猟友会の協力のもと、昨年度、4,000頭を越えるイノシシを捕獲しましたが、それでも、住民の生活圏での出没情報など、近年、街中での野生鳥獣被害の相談も増えています。
今回の特集では、特に相談の多いイノシシとアライグマについて、私たちの暮らしを守るため、どのような対策をするとよいのかを紹介するとともに、平戸市が任命している鳥獣被害対策実施隊員の活動状況を紹介します。
さらには厄介者のイノシシを新たな地域資源としてブランディングするなど、ジビエ利活用に取り組んでいる(株)Green Peaceの取り組みを紹介します。
イノシシってどんな生き物?
- 食べ物 タケノコ、米、イモ、果実、ドングリのほか、カエルなど
- 性 格 基本的には臆病な性格です。パニックになると暴走して、猛スピードで突進してきます。
- 特 性 嗅覚が優れ、犬と同じくらい鼻が利きます。鼻先は人間の手の役割を果たし、70キログラムの石も動かします。視力は悪く、色がわからないと言われています。
- 運動能力 ジャンプ力がバツグンです。助走をつければ、約1メートルの柵も跳び越えます。泳ぎも得意で、海を泳いで渡る姿も確認されています。
街で見かけるイノシシ、実は再急増中
最近、イノシシを目撃したと耳にするようになったと感じていませんか? 平戸市内では、約15年前にイノシシ被害の大きなピークがありましたが、平戸・田平猟友会や生産者が一丸となって被害防止対策を進めてきた結果、捕獲数は年々減少し、「イノシシを見かけなくなった」と思えるほど落ち着いた時期が続いていました。
ところが、ここ2~3年は捕獲数が増え始め、かつてのように住宅街や街中での目撃情報が増加しているのです。イノシシが街中に出没する理由は、温暖化などに伴う山の中の環境変化や、街の食べ物の匂いに釣られるなど、理由はさまざま考えられます。
私たちが、イノシシの性格や行動を正しく知って、落ち着いて対応することが大切です。
平戸市の有害鳥獣捕獲数(頭)
R1年、R2年、R3年、R4年、R5年、R6年、R7年
0 1,000 2,000 3,000 4,000
■イノシシ ■その他
街でイノシシに出会ったら
もしも、イノシシと出会ったらパニックにならず、次の3つの約束を守りましょう。
目をそらさず、静かに後ずさり
背中を見せて走って逃げると、イノシシは追いかけてくる習性があります。相手を刺激しないよう、静かに後ろに下がりましょう。
絶対に近づいたり、おどかさない
かわいい子どものイノシシを見かけても、絶対に近づいてはいけません。近くに必ず気が荒くなったお母さんイノシシが潜んでいます。大声を出すのも止めましょう。
建物や高い場所に避難する
近くの建物に入ったり、頑丈なブロック塀の後ろに隠れたりして、安全を確保してください。
イノシシを街に呼び寄せないためにできること
イノシシは「食べ物がある場所」をよく覚えています。イノシシにとって「魅力のない街」をつくり、街に近づけないための工夫を始めましょう。
エサを断つ(引き寄せない)
畑の余った野菜や、庭に果物を放置していませんか?イノシシにとって、これらは最高の「ごちそう」です。収穫しない果実は早めに採る、生ごみはしっかり密閉して捨てるなど、エサになるものを外に置かないことが肝心です。
隠れ場所をなくす(身を潜めさせない)
家のまわりの草が伸びていると、イノシシは安心して隠れてしまいます。草刈りをして見通しをよくすることで、「ここは危なくて近寄れないな」と思わせることができます。
物理的にガードする(侵入を防ぐ)
頑丈な柵(フェンス)や電気柵を設置して、大切な家や田畑、集落へ入れない仕組みを作りましょう。
最前線で地域を守る平戸市鳥獣被害対策実施隊員
わななどを使って有害鳥獣を捕獲するには、狩猟免許が必要です。狩猟免許には散弾銃・ライフル銃などを使う「第一種銃猟」、空気銃などを使う「第二種銃猟」、「網猟」と、箱わなやくくりわななどを使う「わな猟」の4つの区分があります。イノシシの捕獲には「第一種銃猟」または「わな猟」の狩猟免許が必要です。
平戸市には、平戸猟友会と田平猟友会があります。猟友会は狩猟免許を所持している人で構成され、狩猟シーズンの安全指導や野生鳥獣の保護管理などの他に、平戸市からの要請や委託を受けて、農作物や人への被害を防ぐための駆除や追い払いも担っています。
また、平戸市では、鳥獣から農林水産業の被害を防ぐために、平戸地区と田平地区の猟友会長が推薦する猟友会員を平戸市鳥獣被害対策実施隊(以下、実施隊)として任命しています。現在、4人の隊員を任命しており、猟友会の活動に加えて、街中のパトロールや被害相談対応、捕獲や被害防止の指導・助言などを行っています。時には、行政では対応できない緊急事案でも素早く対応し、私たちの安全な暮らしを陰で支え続けています。
街の安全を守るため、日々ひそかに、そして力強く活動している「平戸市鳥獣被害対策実施隊員」。
ここでは、有害鳥獣対策の最前線で活躍する隊員の声をお届けします。
Interview 平戸市鳥獣被害対策実施隊
(写真右から)
- 横石 紀彦 さん(宮の町)
- 木村 史城 さん(川内町)
- 早田 雅良 さん(田平町)
- 松田 隆也 さん(宝亀町)
実施隊になるきっかけ
父が猟師をしていたので、自然と猟師になりました。猟友会には28年前に入り、現在は会長を務めています。実施隊は18年目になります。
私も祖父が猟師をしていたので、8年前に平戸に帰ってきたタイミングで、猟友会に入りました。実施隊は5年目になります。
私は、40年ほど前に狩猟を始めて猟友会に入りました。実施隊は4年目になります。
私は、地域で農作物などのイノシシ被害が多かったため、10年前に狩猟免許を取り猟友会に入りました。実施隊には、今年の4月に任命されました。
実施隊の活動で苦労したこと
箱わなが重いので、運ぶのが大変です。また、イノシシは大きいと100キログラムを越えるものもいるため、捕獲したイノシシを運ぶのも大変です。谷下の大物のイノシシを数メートル引き上げたのは苦労しました。
基本的にイノシシの作業をするときは皮の手袋を必ず着けるようにしていますが、捕獲したイノシシが横たわって動かなかったため、素手を近づけたところ、頭が少しだけ動いて牙で手をけがしたことがありました。その場ですぐに消毒し、傷口の血も絞りだしましたが、細菌で指が2倍に腫れたこともありました。けがに気を付けています。
これまで、捕獲したイノシシは、穴を掘って埋設していましたが、体が大きいため、埋めるのは、とても大変な作業でした。現在は、㈱Green Peace に引き渡し、ジビエに加工されることで埋める手間が減り、大変助かっています。
イノシシの捕獲状況
最近は、100キログラムを超える大物が少なくなった印象があります。
これまでの取り組みの効果が出てきていると感じています。今では、大きい個体でも60〜70キログラムのイノシシがわなに掛かっています。
秋は捕獲頭数が多く、平戸市全体で月に千頭捕獲することもあります。
わなを仕掛ける時に気を付けていること
イノシシはキレイ好きです。箱わなの周りの草を刈ってきれいにしたり、わなの中に置くエサも定期的に交換するようにしています。
イノシシは、箱わなの入り口に蹄が当たっただけでも、中に入らなかったり、箱わなが作動する蹴り糸をよけてエサだけを食べたりと、賢いところもあります。箱わなに警戒しないように、周りを泥で埋めたり、捕獲しやすいように箱わなを製造する事業者と協議を重ねて、わなを改良したりと常に試行錯誤しながらイノシシを捕獲しています。
イノシシ以外の被害
田平地区では、近年、アライグマの農作物被害や、民家の屋根裏に入り込んでいるといった話を聞くようになりました。捕獲数はまだ多くないですが、中型の箱わなで捕獲しています。見た目はかわいいアライグマですが、気性が荒いので、近づかないように注意してください。
被害を減らすために
イノシシは基本的には臆病な動物です。もしも街中で遭遇しても、イノシシが自分から向かってくることは珍しいと思いますが、ウリ坊(イノシシの子ども)と一緒にいるときは危険です。
イノシシを興奮させないように気を付けて、目をそらさずに静かに避難してください。
イノシシやアライグマなどのエサになるような物を置きっぱなしにしないなど、動物が寄って来ないようにすることが大切です。家の周りに忌避剤を撒いても効果があると思います。
農作物被害も、管理が行き届いている所は被害が少ないです。私たちも、努力してイノシシを捕獲していますが、皆さんもワイヤーメッシュの周りの草を刈ることや、破損箇所を補修するなど、適切に管理することで被害を減らせると感じています。
宝亀地区では、毎年、住民が協力し、捕獲隊として地域でイノシシの捕獲をしています。その分、農地の管理もそれぞれが力を入れています。
新たな脅威!?アライグマ急増中
イノシシに加えてもうひとつ問題になっているのが「アライグマ」です。見た目は愛くるしいですが、実はとても気性が荒く、運動能力が高いのが特徴で、海外から日本に入ってきた生き物のうち、日本の自然や人、農林水産業に悪い影響を与える「特定外来生物」に指定されていて、生きたままの飼育、運搬などが原則として禁止されています。
近年、田平地区においても捕獲数が増加しており、農作物被害や居住区への侵入被害の相談があっています。早期発見・早期対策(徹底捕獲)の取り組みが重要です。
アライグマの特徴
- 増えやすい 通常1年で性成熟し、1年に3~6頭出産します。天敵がいないため、多くが生き残りやすいです。
- 家屋に侵入する 手先が器用で、屋根裏などに住み着いて家を汚してしまうことがあります。
- 野菜や果物が大好物 雑食性で、家庭菜園の作物や、農家の作物を荒らしてしまいます。
- 感染症の危険性 人にも感染する恐れのあるアライグマ回虫などの病気を持っています。
平戸市のアライグマ捕獲数
| 年度 | 捕獲数(頭) |
|---|---|
| R元年 | 7 |
| R2年 | 37 |
| R3年 | 50 |
| R4年 | 57 |
| R5年 | 100 |
| R6年 | 146 |
| R7年 | 117 |
厄介者を魅力ある「地域資源」に
農作物に被害を及ぼす「厄介者」として捕獲されるイノシシ。そのイノシシをただ廃棄するのではなく、1つの命に感謝を込めて地域の新たな資源へと生まれ変わらせる取り組みが、平戸市で進んでいます。
これまで、捕獲されたイノシシの多くは埋設処理されていました。しかし、適切に処理されたイノシシ肉は栄養価が高く、風味豊かな食材として全国でも注目されています。
㈱Green Peaceの平戸ファクトリー(田平町)は、猟友会と連携して捕獲したイノシシを引き取り、衛生管理の行き届いた施設で解体・加工を行っています。ソーセージやベーコン、パテなど多彩な商品として生まれ変わったイノシシ肉は、「平戸いのしし」ブランドとして平戸市内の平戸瀬戸市場やひらど新鮮市場で販売されているほか、インターネットを通じて全国へ届けられています。
この取り組みは、単なる「駆除」ではなく、山の恵みを地域の資源として活かす「命のリレー」という考え方に基づくものです。捕獲から加工、販売までを一体的に行うことで、農作物被害の軽減、猟友会の高齢化対策、地域産業の創出など、持続可能な地域づくりに大きく貢献しています。
イノシシの命を無駄にせず、地域の力へと循環させるこの取り組みは、今、全国から注目を集めています。
令和7年度鳥獣対策優良活動表彰農村振興局長賞(捕獲鳥獣利活用部門)を受賞
鳥獣対策優良活動表彰は、野生鳥獣の被害防止や捕獲鳥獣の利活用に優れた取り組みを行う団体・個人を表彰するものです。
㈱Green Peaceは、猟友会と連携してイノシシの捕獲個体を引き取り、食肉加工やインターネット販売を通じてジビエの利活用を進めています。これらの取り組みは、農作物被害の軽減に寄与するとともに、高齢化が進む猟友会の活動を支援するものとして高く評価され、農林水産省農村振興局長から表彰されました。
Interview
㈱Green Peace 代表取締役 CEO 市山 宗 さん
㈱Green Peaceの平戸ファクトリーでは、5人の職人でイノシシを捌いています。近年、人材育成にも取り組んでいて、東京から志々伎町へ移住した新人の平松さんは、狩猟免許も取得し、自身が捕獲したイノシシを捌いて食べることを目標に、イノシシ肉の捌き方などを修行するため一緒に働いています。
私たちは平成29年から試験的にイノシシの加工を始めました。現在は農業法人として、ジビエ加工に加え、ジャガイモや玉ねぎなどの野菜の生産にも取り組んでいます。
私自身、祖父が平戸で精肉店を営んでいたこともあり、子どものころから店の手伝いをしたり、焼き肉店で働いたりと、食肉に触れる機会が多くありました。その中で「命をいただく」ということの重みを自然と学んできました。平戸ではイノシシを食べる文化があまり根付いていませんが、多いときには年間6千頭も捕獲されていました。これまで埋設処理されていたイノシシですが、有害鳥獣とはいえ一つの命です。「無駄にせず活かしたい」という思いから、加工に踏み出しました。
イノシシ肉と聞くと、固い・臭いというイメージを持つ人も少なくありません。だからこそ、私たちは品質に強くこだわっています。止め刺しの時間が明確な個体しか扱わず、少しでも臭みが出る可能性があるものは加工しません。
ジビエは最初の印象がとても大事で、「おいしい」「また食べたい」と思っていただける品質を維持することを何より大切にしています。
ジビエで苦労するのは、仕入れが安定しないことです。月によって捕獲数が大きく変わるため、出荷数も一定になりにくく、飲食店のレギュラーメニューとして採用されにくいという課題があります。私たちは加工品を販売するサイトも運用しています。安定して出荷できるよう、猟友会との連携を強化し、取扱量を増やして「平戸いのしし」クオリティーを全国へ届けたいと思っています。
将来的には、私たちが加工したイノシシを平戸で直接味わっていただける飲食店をオープンすることが私の目標です。お客さんの「美味しい」という声を目の前で聞ける場をつくりたいと考えています。
害獣ではなく、山の恵みとしての新たな資源。命を大切にしながら、新鮮な「平戸いのしし」をこれからもお届けします。
㈱Green Peace 平戸ファクトリー工場長 西 清信 さん
私たちは、新鮮なイノシシ肉を提供するため、捕獲したイノシシが生きているうちに、現場に引き取りに行きます。すぐに適切な処理を行い、鮮度を保ったまま加工しています。大きいイノシシを運ぶのは大変ですが、脂がのってとても美味しいです。
みんなの知恵と行動で、住みやすい街を
ここまでイノシシの生態から実施隊員の活躍、そして命を循環させるジビエの取り組みを紹介してきました。イノシシといった有害鳥獣の対策は、猟友会や行政だけの問題ではありません。一人ひとりの小さな心がけが集まれば、イノシシなどの野生生物との適切な距離感を保ち、誰もが安心して暮らせる街をつくることができます。未来の安全な暮らしのために、できることから一つずつ、みんなで取り組みましょう。
